企業が社会的存在である以上、社会のルールである法律や社会良識に沿った企業活動を行うのはごく当然のことです。
さらに、現代では、社内に法令違反を起こさないための「コンプライアンス体制」を構築し、しっかりと運用していることが企業の責任と考えられるようになっています。
一度違法行為が発覚すると、行政的な処分を受けるだけでなく、当たり前の責任を果たしていない企業として、取引先や消費者からの信用を失い、多額の損害賠償を求められるなど、事業の継続が不可能になる場合もあります。大手企業だけでなく、中堅・中小企業にとっても重要性が増しています。
コンプライアンスを直訳すると「法令遵守」です。しかし、現代の企業が「当社はコンプライアンスを重視した経営を行っています」と言う場合には、単に法律や条例を守るだけでなく、その背景にある法の精神や社会良識といった「社会規範全般」、さらには社内規則や業務マニュアルなども含めた幅広い規則を遵守していく姿勢を表していると考えるべきです。 なぜなら、仮に法律に違反していなくても、法の抜け穴をかいくぐるような行動をとれば非難が殺到し、法令違反を犯したのと変わらない影響を受けることが十分に予想できるからです。
また、法律とは無関係な社内規則に違反しても、その行為が企業収益に悪影響を与えるものであれば、株主代表訴訟などで損害賠償を求められる可能性があります。コンプライアンスをリスクマネジメントの一種ととらえるならば、法令に限定することなく、より広範囲な規範に対応しておくことが重要です。
ほぼすべての企業がITを利用している現代では、取り扱われる「情報の適切な管理」が高度なレベルで求められている。代表的なものは顧客や取引先、自社従業員などの個人情報である。また、情報システムの問題以外でも、従業員のSNS利用時のリスク管理、営業秘密の不当取得、さらには上場株式のインサイダー取引など、幅広いリスクが内在した分野といえる。
個人情報の漏えい、目的外使用/企業秘密の漏えい、不正取得/電子メール、SNS利用上のトラブル/インサイダー取引
企業が関わる不正行為の代表ともいえるのが、競合他社と価格や販売数量、販売地域などについて取り決めを行う「不当な取引制限(カルテル)」である。こうした取り決めを行う談合には、発注者である官公庁などが枠組みを作る「官製談合」といったものもある。いずれにしても、関与した場合には厳しいペナルティーが科せられる。また、独禁法における「優越的地位の濫用」にあたる、いわゆる下請けいじめでも多くの問題が発生している。
カルテル(談合)/不当廉売/下請けへの値引き強要などの不当取引(下請けいじめ)
資金に関係する不正の典型例は「脱税」「申告漏れ」「所得隠し」などである。逆に、上場企業の場合は株価を維持するために、利益などを偽って申告するケースもある。また、近年は行政からの各種補助金を不正に受給するための虚偽申請も少なくない。いずれも反社会的行為であり、完全な犯罪であることを再認識する必要がある。
脱税/粉飾決算、株価操作/違法配当/資金不正使用/裏金捻出/補助金などの不正受給/債務不履行
2000年代以降に頻発したのが、消費者や取引先を欺く、各種の「偽装・偽造・隠ぺい」である。これらが社会問題となり、コンプライアンス重視の流れをつくる大きな要因となったことは間違いない。2009年には消費者庁が発足し、今後も行政の「消費者保護」の方向性はより強まるものと見られる。問題を起こした企業が受けたダメージも深刻で、中小企業の場合は倒産に直結した例も多い。
製造物責任/7リコール隠し/産地偽装、品質表示偽装、原材料偽装など(不当表示)/保険金不払い/過剰営業(強引な勧誘など)/個人的謝礼の受け取り/苦情対応での暴言
特許の侵害は、たびたび裁判にもちこまれる。司法の場で特許侵害が認められると、多額の賠償金を支払わなくてはならない。また、ソフトウェアの違法コピー、写真や文章の無断使用なども比較的安易に起こしやすい法律違反といえる。写真の場合は肖像権の問題が発生することもある。
ソフトウェアの違法コピー/写真や文章などの無断使用/特許侵害
贈賄は、国内はもちろんのこと海外での対応も重要となる。日本では「不正競争防止法」で外国公務員に対しても贈賄は禁じられている。一部の発展途上国などでは賄賂の要求に応えないと仕事が進まないといったケースも考えられるが、贈賄に日本人が関与していれば、たとえ国外での行為であっても同法が適用される。もちろん、現地の法律で禁じられている行為は当然行ってはならない。反社会的勢力は、表向きは一般の企業と区別がつかないこともあり、慎重な対応が必要だ。各自治体が制定している「暴力団排除条例」では、不動産の提供など一般的な取引も禁止されていることがある。
贈賄/暴力団、総会屋など反社会的勢力への利益供与/反社会的勢力との交際
労働法違反では、時間外労働に対して相応の賃金を支払わない「サービス残業」が代表的。労働組合との協定の範囲内に収めるために、いったんタイムカードに打刻してから、さらに業務を続けさせるようなケースもある。過剰な労働は、過労死や従業員のメンタル不調の原因になりやすく、いったん表面化すると大きな問題となり、社会的な非難を受ける可能性が高い。また、工場など製造現場での偽装請負の問題も多発している。
サービス残業/過労死やメンタルヘルス問題/性別による雇用機会・待遇・教育・評価・昇進などの不均等/内部通報者への報復的人事、不当解雇/偽装請負
法令ではないが社内規則に則った業務命令や社内手続きを軽視することは、コンプライアンス上の大きな問題と言える。特に、利益や効率を優先し、安全管理をおろそかにする企業風土が定着すると、取り返しのつかない大事故につながることもある。その場合、経営者や取締役はそういった企業風土をつくった責任を問われる可能性がある。
違法業務命令(部下に規則違反の行為をさせようとする)/工場や作業現場、店舗での安全軽視/上司印の無断利用
ハラスメントとは「いやがらせ」「いじめ」のことだ。純粋に人権問題という側面もあるが、企業経営の観点からは、職場の雰囲気を乱し、業務効率低下や業績悪化の一因となる悪質な行為と言える。また、訴訟などに発展した場合には企業イメージを大きく損なうことにもなる。
セクシャルハラスメント/パワーハラスメント/モラルハラスメント/ジェンダーハラスメント/アカデミックハラスメント
横領などは明らかに犯罪行為だが、本来なら企業に対して忠実義務を負うはずの従業員がそうした犯罪に走るような環境は、管理体制に問題があると言わなくてはならない。また、従業員の私生活も企業のコンプライアンスと無関係というわけにはいかない。問題を起こした場合には、所属している企業名がマスコミなどで報道され、影響が及ぶ場合もあるからである。
業務上横領、私的流用/飲酒運転/賭博/法薬物使用/暴力
近年急速に関心が高まっているのが環境に対する企業の姿勢である。現状でも、環境汚染や不法投棄は大きな問題となっている。また、今後二酸化炭素の排出権売買がビジネスとして確立されると、自社の排出量をどう算出し申告するかが、費用とのかねあいで非常に重要になってくる。この時に、実際よりも少なく見積もって申告した企業に対しては、地球環境に対する責任感のない企業だという非難が集中するリスクがある。
土壌汚染、水質汚染、大気汚染/廃棄物の不法投棄/二酸化炭素排出量の不正申告
企業活動のあらゆる局面で発生リスクがあるコンプライアンス違反だが、それが引き起こされる背景を再確認しておくことは、対策を立てる上でも非常に重要だ。一般的にコンプライアンスの問題は、以下のようなさまざまな要素が複合的に絡み合って発生すると考えられる。
コンプライアンスの問題は、主に「組織風土」「職場環境」に大きな要因があることがわかる。
従って、コンプライアンス対策とは、「形」や「仕組み」をつくればそれでよいのではなく、最終目的は、目先の利益よりも倫理を優先する組織風土や職場環境、つまり「法令違反が起こりにくい企業体質」をつくりあげることと言える。
法令違反が起こりにくい企業体質をつくりあげるためには、「コンプライアンス体制の整備」と「コンプライアンス啓蒙活動の徹底」の両輪が不可欠となる。
ここでもっとも重要なのは、経営トップの強い意思である。形だけコンプライアンス対策を行っても、経営者が本心では「法律など守っていたら仕事にならない」「この業界は昔からグレーゾーンが認められてきた」などと考えていれば、それがふとしたはずみに言動に出ることがある。
一度でもそういうことがあると、組織は「コンプライアンス対策は所詮建前であり、真剣に取り組む必要はない」と受け止めてしまう。そうなると、せっかく構築したシステムも正常には機能せず、いつかはほころびが出てしまう。
各企業の役員・従業員の行動規範の指針として定めるもの。
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各企業のコンプライアンスに関わる基本的な行動や考え方をまとめたもの。
各企業の役員・従業員からの組織的または個人的な法令違反行為等に関する相談または通報の適正な処理を定めたもの。